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最高裁判所第三小法廷 昭和32年(オ)277号 判決 1960年10月11日

上告人 高須賀時太郎

被上告人 伊藤静子

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人津島宗康の上告理由第一点について。

所論財産管理権喪失宣告申立事件について該申立が理由なしとして棄却されることなく、また所論財産管理権執行停止代行者選任申立事件につき執行停止の決定がなされ、なお代行者が選任されたとしても、このことのために、原判決において反対の事実を認定しえないわけではないし、次に、原判決において、所論噂が事実であつたと認定しているのでなく、訴外伊藤フミ子(被上告人の母、親権者)が噂を軽信し、それが動機となつて不動産の所有名義変更などの措置に出た旨認定しているのであるから、所論採証法則違反の主張はすべて理由がない。

さらに、原判決は挙示の証拠によつて右記伊藤フミ子の原判示行為は、民法八三五条にいわゆる管理が失当であつたことによつて子たる被上告人の財産を危うくしたときには該当しない旨判断しており、証拠に照らし右判断は首肯できる。さらにまた、民法八二六条の規定により特別代理人を選任すべき場合にこれを選任せずしてなした行為は、子が成年に達した後に至つてかかる行為を追認したときは該行為は完全な効力を生ずるものと解するを相当とするところ(昭和一一年(オ)第一〇〇八号、同年八月七日第二民事部判決、民集一五巻一九号一六三〇頁参照)、子たる被上告人が昭和二九年六月一二日成年に達したものとみなされた後に、右記伊藤フミ子の原判示行為を追認したことは原判文上明らかである。されば、原判決における措辞妥当を欠く点もあるが、原判決には所論審理不尽理由不備および採証法則違反の違法はない。論旨はすべて理由がない。

同第二点について。

原判決における判断は、民法八二六条の解釈を誤つたものでないことは、第一点において説示するとおりであり、また論旨引用の大審院判例は本件に適切でないから、論旨はいずれも理由がない。

同第三点ないし第六点について。

原判決は、上告人が管理権喪失宣告申立費用及びこれに附随する費用として上告人主張のような諸費用を支出したとしても、上告人の申立てた管理権喪失宣告事件は家庭裁判所において管理権喪失宣告をなすに至らないで終了したばかりでなく、上告人はかかる管理権喪失宣告申立等の手続をなす必要もなかつたものであるから、民法債権篇事務管理の規定を類推適用しても、上告人の本訴費用償還請求は失当である旨判断しているのであつて、原判決摘示の上告人の主張ならびに原判決挙示の証拠に照らし右判断は肯認できる。故に、所論は、結局、原判決の認定に副わない事項に立脚して独自の見解に基ずいて原審の裁量に委ねられた証拠の取捨判断ないし原判決において適法になした事実の確定を非難するに帰し、すべて採用できない。また論旨引用の大審院判例はいずれも本件に適切でない。論旨はすべて理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高橋潔 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 石坂修一)

上告人代理人津島宗康の上告理由

原判決認定事実

(一) 上告人が被上告人の母伊藤フミコの実兄である事

(二) 被上告人(昭和十年四月廿七日生)が昭和十九年父豊富の死亡により家督相続を以てその財産(価額参千万円)を相続したが未成年(当時九才)であつた為母フミ子の親権に服して居た事

(三) 右母フミ子は昭和廿三年四月頃から妻子の有る男訴外十亀正春と私通関係を生じ爾来其の関係を継続し昭和廿七年右十亀が其の妻を離婚するや之と同棲し此の間嫡出子でない子二人を出生した事

(四) 右フミ子が被上告人の法定代理人として被上告人の所有財産の一部である家屋及び畑地を売却した事

(五) 右母フミ子が昭和廿二年九月頃不実の方法によつて被上告人所有山林九筆(価額金五百万円)をフミ子名義に所有権取得登記をした事(被上告人が当時十二才)

(六) 右母フミ子は昭和廿四年頃より被上告人所有の山林の立木を次々に売却しその売却代金を以て(約金壱千万円)昭和廿七年八月頃から昭和廿八年十二月頃迄の間において山林計三十二筆を買受けこれをフミ子名義に所有権取得登記をした事

(七) 上告人が右母フミ子の行為を親権の濫用財産管理の失当として被上告人の財産保全の為昭和廿七年十一月頃右フミ子を相手取り財産管理権喪失の申立を家庭裁判所に提訴した事

(八) 上告人は更に昭和廿八年十月頃弁護士津島宗康に右管理権喪失宣告申立事件及之に附属する諸手続を委任し同弁護士は右委任に基き裁判所に対し右フミ子の財産管理権執行停止、代行者選任の申立を為し同年十二月三日裁判所は右フミ子の被上告人に対する財産管理権の職務執行を停止しその職務代行者として弁護士松本梅太郎を選任し右松本弁護士は同年十二月廿四日右母フミ子所有名義に係る不動産につき処分禁止の仮処分をして被上告人の為に之を保全した事

(九) 被上告人は昭和廿九年六月十二日訴外伊藤実男と婚姻し法定成年に達した事

(一〇) 仍て財産管理権喪失宣告申立は其の必要がなくなつたので之を取下げた事

以上原判決が明らかに認める処である。

斯る認定に基き、仮りに右フミ子の行為が財産管理権喪失宣告申立を為すべき場合に相当する時は被上告人の財産保全の為に行つた上告人の前記事務は民法規定の事務管理費として当然被上告人が之を上告人に対し支払うべきものと判示した原判決は適法正当であるが右認定事実によつては、之を財産管理権喪失宣告申立其の他の手続をして被上告人の為にその財産保全手続を執らねばならなかつた程被上告人の財産が危殆に頻していたものとは認められない、さらに又上告人が前記の如く管理権喪失宣告の申立をなし又管理権執行停止代行者選任等の手続をなした事により被上告人の所有財産が保全されたものとも見られない、然らば仮りに上告人が是等の手続費用として上告人主張のような諸費用を支出したとしても被上告人に対し右費用の償還を請求できる筋合でないこと明らかであると謂わなければならないと判示している。

原判決の法令並判例違反

右の如き認定事実に基く右の如き判決は

第一、採証の法則に反し

第二、民法第八二六条並に同法条の適用に関する大審院判例に反し

第三、重要な主張事実に付判断遺脱理由不備審理不尽の違法あり

第四、民法第八三四条親権者の不行跡並に其の適用に関する大審院判例に違反し

第五、民法第八三四条親権濫用並に其の適用に関する大審院判例に違反する

第六、民法第八三五条に違反する

事明白であつて其の破毀を免れないものである。

上告の理由

第一点原判決は採証の法則に違反している。

原判決が如上認定事実(三)乃至(六)の事実を認め乍ら之を親権の濫用又は著しい不行跡又は被上告人の所有財産を危うするものと認めなかつた理由は只管に斯る行為をした親権者フミ子自身の自己弁護的な証言と被上告人の本人訊問における供述のみに依拠しているのである乙第一号各証乙第二号証は共に財産管理権喪失宣告申立事件において右フミ子提出の証人等の証言調書であるが之等証言の結果を綜合しても右(三)乃至(六)の事実を適法化したり、被上告人の所有財産が逐次に約其の半額に減少され、それがフミ子の所有物として登記された事実を否定する効果のない事は呶々を要しない処である。

若し仮りに是等の証言によつて管理権喪失の理由がないと認定せられるものならば既に其の頃即ち乙第一号証成立の昭和廿八年二月十一日乙第二号各証の成立した昭和廿八年四月一日以後間もない期間に喪失申立は理由無しとして棄却さるべきである。又其後同年十一月廿四日管理権執行停止代行者選在申立に対し其の九日後の十二月三日に此の申立を却下さるべきであるか然るに事実は之に反し喪失宣告申立は棄却されず執行停止代行者選任申立は九日間の審査の結果、右フミ子の財産管理権は停止され代行者は選任されたのである。

斯くの如き証拠を以て被上告人の財産を危うしたものでないと認定するが如きは不合理極まる事である。

又原判決は第一審証人伊藤フミ子の証言中、被上告人所有山林九筆を自己の名義にしたのは、当時未だ終戦後の混乱期にあつて一人が山林を五町歩以上を所有できなくなるという噂が流布され右噂を軽信した事によるとの部分を採用し右山林九筆五百万円の財産が被上告人の所有財産から減少しフミ子自身の所有財産に移転している現実を適法化したのである、斯る証言を採用せんには先ず果してその様な噂が流布されたかどうかを究めなければならない、にも拘らず之を確めないで漫然之を採用した事は架空の事実の証言を採用したものであつて採証法則違反である。

仮りに左様な噂の流布が事実あつたとしても被上告人の財産を親権者の所有に移転する事は親子利益相反行為であるから民法第八二六条により特別代理人を選任し其の同意を得た上に之を行うべき事は裁判所において顕著な法定事実であるにも拘らず其の手続をも為さずして行つた財産所有権移転行為を適法視した事は無法にあらざれば法条軽視の甚だしいものと云わねばならない、然らずとしても審理不尽理由不備の違法がある。

原判決は又被上告人の母フミ子が被上告人の所有山林の立木を売却した代金金壱千万円を以て購入した山林三十三筆(事実は四十二筆八百万円相当)を全部フミ子名義に所有権取得登記をしたのは当時意思能力を有した被上告人の諒解を得てしたものであり被上告人は母フミ子が自己の財産を管理するに何等不服はなく、上告人がフミ子の管理権喪失申立及び其の他の手続をした事に対し甚だ遺憾に感じていることを認める事が出来るとして斯る巨財が被上告人の所有から右母フミ子自身の所有に侵奪されている現実の事態乃至フミ子の行為を弁護して其の甚しい違法性失当性を阻却して之を適法化する事に努力している。

若し原判決所論の如く、意思能力ある未成年者が同意するにおいては、親子利益相反行為に付特別代理人を選任して其の同意を求むる要なしとするにおいては民法第八二六条の規定は空文に帰する事となる、同法条が未成年者に付意思能力の有無に付区別を設けてないのは、意思能力は有つても、未成年中は社会生活体験や思慮分別判断能力等が未だ成熟せず従つて重大な自己の財産の減損を帰すが如き結果を招く親子利益相反行為に付ては未成年者の意思並意思能力の有無に拘らず特別代理人の選任を要求してあるのである、従つて原判決が、意思能力ある未成年者としての被上告人の諒解を得たと云うフミ子の証言並に之に同調する様な被上告人の供述を採用した事は違法の事実を内容とする証言の採用であつて採証の法則に反する事斯くも明白なものはない。

然も被上告人とフミ子とは本件については利害共通するに至つているので上告人が衷心被上告人の財産を其の母フミ子による奪取、危殆から保全する事を完全に行い来つたのに拘らず且つ終始未だ嘗て上告人に対し反対意思の表示は勿論、其の態度言動において反対意思を有するものと認むべき何事も、又如何なる行動も無かつたのに拘らず、今に至つて之を迷惑に感じているとの供述を採用した事も著しく不合理である。

以上の通り原判決は採証の法則に反して採用した証拠によつて、被上告人の母フミ子が被上告人の財産(原判決認定額参千万円)の約半分に近い金額に相当する巨財を侵奪したものと明白に認められる行為を、被上告人の財産を危殆にしたものでないと認定した違法があり同時に審理不尽理由不備の違法が併存する。

第二点原判決は民法第八二六条並に同条に関する大審院の判例

「利益相反行為であるかどうかは行為自体について判断し縁由を考慮すべきでない」(大審大正七年(オ)第四四二号同年九月十三日判決)

に違反し因つて事実の認定を誤り上告人を敗訴させたものである。

被上告人の母フミ子が被上告人の財産を減少させて之に因つてフミ子自身の所有財産を作出した事は原判決認定の通りである。

斯るフミ子の行為は被上告人に対利益相反行為である事は呶々の要なき処而して斯る場合其の縁由の如何は考慮すべきでなく、特別代理人の選任を裁判所に申請し、選任せられた特別代理人の同意を得た上でなければ、為してはならない事である事は民法第八二六条並右大審院判例に照して極めて明白である。

被上告人の母フミ子は右規定並判例に違反して右行為を行い依て被上告人の財産を奪取して危うしたのであつて、此の行為は同時に親権の濫用でもある。

原判決は斯る違法の行為によつて被上告人の財産を現実に奪取し危うしている事実を、被上告人の同意と縁由に名目をかり現実に被上告人の財産を奪取し危うしたものでないと認定した事は右法条並に判例に反する違法の判断である。

第三点原判決は上告人の主張の重要な点に付判断を遺脱し且つ審理不尽、理由不備があり因つて上告人を敗訴させたものである。

上告人は第一審以来被上告人の母の違法行為に対し財産管理権喪失宣告申立の原因事実として民法第八三四条に規定する親権喪失宣告申立の理由たる著しき不行跡の行為として被上告人の母フミ子が昭和廿三年四月以来妻子ある男子、十亀正春と私通関係を継続し私生子二人を設け(因つて)正春に其の妻を離婚させ之と同棲して現在に至つている事実を指摘し斯る不行跡も財産管理権喪失宣告申立の理由としている事原判決認定の通りである。(如上認定事実(三))

原判決は斯る本質的に重要な喪失宣告申立原因事実に付何等の判断をしていない。

之は重要な主張事実に付て判断を遺脱した違法並審理の不尽と判決全体として理由不備の違法がある。

第四点原判決は民法第八三四条並に其の適用に関する大審院判例

「親権を行う母が私生子を分娩し且つ情夫を自宅に引入れるのは著しい不行跡である」(大審院昭和五年(オ)第五七四号同年七月三〇日判決)

「医師の未亡人が妻子のある男子と私通して其の妻を離別させたのは著しい不行跡である」(大審院昭和一二年(オ)第二二六〇号同十三年四月十一日判決)

に違反した判断を行い因つて上告人を敗訴させたものである。

原判決は被上告人の母フミ子が妻子のある男子十亀正春と私通し嫡出子でない子二人を分娩し且つ私通関係継続五年後の昭和廿七年其の妻を離別するや之と同棲している事実を認定している事前述の通りである。

被上告人宅は被上告人の所有財産山林等参千万円(原判決認定)乃至五千万円に相当する資産家であり、居村大保木村(当時の)では屈指の家柄で、相当高位の社会的地位がある、其の様な地位のある家の未亡人である右フミ子が同村内の妻と子二人ある男子と私通して二子を分娩し(因つて)其の男子十亀正春をして其の妻を離別させた(此の点につき、離別の理由を其の妻の不行跡に転嫁しているが其の根本原因がフミ子と十亀正春との私通関係の継続や私生子の分娩等にあつた事は推認に難くない事である)上右十亀を自宅に入れて之と同棲(内縁の夫婦と称し)している事実は、正しく前掲大審院二判例に該当する著しい不行跡として民法第八三四条により親権喪失宣告申立の理由となるものと解すべきである。

然して親権喪失の内容には財産管理権喪失を包含しているから親権喪失宣告の申立に代えて財産管理権のみの喪失宣告の申立をする事は実情に即して申立人の任意に為し得る所である事は勿論である(此の見解に付浦和地裁大正十三年(タ)第二六号同十四年四月二日判決「管理権の行使が失当でない場合でも親権の濫用又は著しい不行跡があるときは管理権だけの喪失を宣告する事で出来る」を参照すれば本件の如く財産管理権の著しい失当の存する事案に付ては当然斯る著しい不行跡に基き財産管理権のみの喪失宣告の理由ありと為すべきである)。

にも拘らず原判決が此の点に付判断を遺脱したのは民法第八三四条の解釈を誤り且つ右大審院の二判例に違反する判断を為した事に由るものと解するの外はないのであつて則ち原判決は民法第八三四条並右二個の判例に違反するものである。

第五点原判決は民法第八三四条並其の適用に関する大審院の判例

親権者が子の重要な財産を売却して自己のために費消するのは親権の濫用である。(大審院昭和九年(オ)第一九四八号同年十二月廿一日判決)

に違反した判断を為し因つて上告人を敗訴させたものである。

原判決は、被上告人の母フミ子が被上告人の重要な財産である山林九筆を売却し更に之を自己の所有名義に取得登記を為した事実並に被上告人の所有山林に(十六筆)生立した立木(価額約壱千万円)を逐次に売却し其の代金を以て山林三十三筆(事実四十二筆)(此の価額約八百万円)を買受け悉く之を自己の為に自己の名義に所有権取得登記を為した事実は明らかに認めている事前述の通りである、斯るフミ子の行為は親権の濫用である事右大審院判例に照し明白であるから民法第八三四条によつて親権喪失宣告の理由がある従つて親権の内容の一である財産管理権喪失宣告の理由ありと解すべき事第四点の場合と同断なるに拘らず原判決は、民法第八三五条に規定する、被上告人の財産を危うする程度でないとして喪失宣告の理由なしと判示したのは、民法第八三四条と右判例の趣旨に違反したものである。

第六点原判決は民法第八三五条に違反する。同法条には親権者が管理の失当であつたことによつて其の子の財産を危うした時は裁判所は申立によつて、その管理権の喪失を宣告する事ができる旨を規定してある、親権者が子と利益相反行為である所の子の財産を虚偽の売買によつて他人に売却し之を更に自己の買受名義によつて自己に所有権取得登記を行つたり子の所有山林に生立する立木を売却し其の代金を以て買受けた山林を自己名義に所有権取得登記を行う場合民法第八二六条に依り子の為に特別代理人の選任を得其の同意を求めた上で之を行うべきであるに拘らず其の手続を経ずして恣意に行うのは前述の通り親権の濫用と認めらるべきは勿論、管理が失当違法である事は申す迄もない事であり、これは依つて子の財産を危うした時は親権濫用に当らない場合でも、財産管理権喪失宣告の理由がある。

本件被上告人の母フミ子の行為は正しく此の場合に該当し子たる被上告人所有の山林並立木を売却処分し其の売却した山林九筆五百万円相当を自己名義に買受け所有権取得を登記し売却した立木の代金約壱千万円中の金員を以て約八百万円に相当する山林を買受け之を自己名義に所有権取得登記をした事原判決認定の通りであるが斯る親子利益相反行為を為すには民法第八二六条に従い特別代理人の選任を得て其の同意を求めた上で行うべきであるのに之を行わずして利益相反行為を為した事は親権の濫用であると同時に管理の失当に該当する事一見明瞭であり、斯る管理の失当によつて被上告人の財産を約其の半分近く迄喪失させて之を自己の所有に帰せしめ、尚逐次に之を反復遂行する実情にあつた、斯る場合之を以て子の財産を危うした時と認める事が客観的に妥当ではなかろうか、若し原判決の判示する如く、之をしも被上告人の財産を危うするものでないとするならば、如何なる方法により如何なる程度に利益相反行為を行い子の財産を自己が侵奪領得すれば財産を危うした時に該当するか之を解することが出来ない。

原判決が之を以て未だ被上告人の財産を危うしたものでないと認めた理由は前掲乙第一号各証乙第二号各証の何れも管理権喪失宣告申立事件記録中の審判期日の調書中にも乙第一号証の二、三証人伊藤初尾並に伊藤周一の証言調書と右フミ子の証言と被上告人の供述に依拠した主観的独断的な認定に基くもので何等客観的妥当性のない認定である、則ち右乙第一号証の二、三の証人訊問調書を調査して見るに右利益相反行為の行われた事実は不知であつて一言も此の事実に解れず不知を以て答えている従つて斯る証拠を以て右利益相反行為によつて被上告人の財産を危うした時に当らないと認定する事は出来ないものであるそうすると結局、原判決は只管に、利益相反行為を違法に敢行した、フミ子の弁明的証言と被上告人本人の供述のみによるものである事が明白であり、それが採用すべからざるものである事は第一点において採証法則違反として陳述した通りである。

然し斯る利益相反の違法行為による財産の奪取に付ては右喪失宣告申立事件においては何等の弁明も行つていないし被上告人においても之を諒解又は同意する旨の供述も証言も行つていないのであつて本件請求から免れる為の狡猾な遁辞に過ぎないものである。

以上上告の理由第一点乃至第六点において略述した通り原判決には数多くの法令並判例違反がありそれ等は各々判決に影響を及ぼし勝訴すべき上告人を敗訴させたものであつて所詮破毀は免れないものである。

即ち被上告人の母フミ子の行為は社会通念を照らし普遍的客観的に公正に判断されたときは財産管理権喪失宣告並に管理権執行停止代行者選任を必要とし其の奪取した財産に対し処分禁止の仮処分をして被上告人の為に之を保全する事を必要とした事実が明らかに認定せられるべきである。

従つて斯る場合被上告人の財産中喪われた大半の財産の回復、並に尚喪われんとしていた残存財産を母フミ子の奪取から防護して全財産を保全する為に上告人が行つた数々の行為に要した費用は財産保全事務管理費用として当然に被上告人から上告人に対して償還すべき義務の存する事は原審において上告人が控訴の理由に付詳述した処であり、此の点に関する原判決認定の通りである。

仍て則ち原判決を破毀し請求する事務管理費中証明済のものに付、被上告人から上告人に対し支払うべき旨の御判決を求むる為以上陳述の理由を具して本上告に及んだ次第である。

以上

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